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質権とは?種類と担保権・抵当権との違いを解説
住宅ローンを借り入れる際、火災保険に「質権」が設定されることがあります。この質権とは、どのような権利で、なぜ設定されるのでしょうか。質権が設定されると、債権者が担保となった財産を優先して処分し、貸したお金を回収できるようになります。
本記事では、質権の概要や担保権・抵当権との違い、質権の種類について解説します。
質権(しちけん)とは?
質権(しちけん)とは、債権の担保として債務者(=お金を借りる人)や第三者から預かった目的物を、金銭が弁済されるまで占有し、契約で約束した義務を果たさない「債務不履行」があった際に、預かっていた目的物を処分して優先的に弁済を受ける権利を指します。財産を債権の担保として預けることから、「担保権」の一種です。
例えば、お金借りる際に、借りる金銭と同等以上の価値のある物を預けておき、お金を返し終わったら預けた物を返してもらえるが、お金を返せなかった時は債権者が預かっていた物を売った代金で返済するという契約で用いられます。
質権と抵当権の違い
質権は、同じく担保権である「抵当権」と比較されがちです。抵当権も、債権の担保として価値のある物を預け、返済されれば預けた物を返却、返済されなければ預けた物を売却して弁済を受けることができる権利です。質権も抵当権も、確実に契約で約束した義務を履行してもらうために設定されます。
質権と抵当権の大きな違いは、「誰が担保となる物を使用できるか」という点です。質権では、債権者が担保となる物を保管し、使用することができます。債務者は、弁済するまで担保となった物を使用することはできません。
対して、抵当権では、所有者が担保となる物を管理し、使用することができます。抵当権で分かりやすい例が住宅ローンです。住宅ローンでは、ローン返済期間中でも担保となった住宅に債務者が住み続けることができます。
質権の3つの種類
質権は、担保となる目的物によって「不動産質」「動産質」「権利質」の3つに分類されます。
不動産質
不動産質とは、その名の通り不動産に設定する質権を指します。不動産質を取得した債権者(=不動産質権者)は、担保となっている不動産を管理し、利益を得ることができます。そのため、債権の利息を債務者に請求することはできません。
不動産質権の存続期間は民法360条によって10年以内と定められているものの、期間終了時にさらに10年以内であれば更新することも可能です。
ただし、不動産質権を設定すると債務者が不動産を使用できることから、不動産を担保とする場合は抵当権のほうが機能的です。そのため、現代では不動産そのものに質権を設定することはあまりありません。
動産質
動産質とは、不動産以外のすべての動産に設定される質権です。
動産質は、現代でも質屋で広く用いられています。具体的には、質屋が持ち込まれたブランド品を預かる際に動産質を設定します。この時点では、お客さんは現金を質屋から借りて、質屋はブランド品を預かっただけの状態です。その後、期限内に利息を含めてお金を返済したら、預けたブランド品はお客さんに返却されます。しかし、期日までにお金が返済されなければ、ブランド品は質屋のものになり、売却するなど処分が可能になります。
権利質
権利質とは、財産権に対して設定される質権です。財産権には、債権や株式、有価証券、著作権・特許権などの知的財産権などが該当します。なお、所有権に関しては、権利質に含まれません。
現在、不動産質と動産質については、実務上あまり使用されていませんが、権利質は多くの取引で頻繁に設定されています。例えば、住宅ローンの担保として、火災保険の保険金を請求・受け取る権利に対して権利質が設定されます。権利質を設定することで、住宅ローンの返済が残っている住宅が、火災や自然災害によって失われてしまった場合でも、金融機関は貸付金を回収することができます。
住宅ローンでは抵当権も設定されますが、建物そのものが失われてしまった場合、売却することができないので貸付金を回収できません。対して、権利質が設定されていれば、火災保険の保険金で優先的に弁済を受けられるのです。火災保険の請求権に質権を設定する場合、住宅ローンを完済するまで、金融機関が保険証券の原本を保管することになります。
質権を設定する取引では仕組みをよく理解しておこう!
本記事では、質権の仕組みや種類について解説しました。お金を借り入れる際に質権が設定されると、返済が滞った際に、担保として質に入れた目的物は債権者に処分されることになります。抵当権と異なり、債務者は担保となった目的物を管理・使用できません。
現代においては、不動産そのものに対して質権が設定されることはほとんどありません。しかし、身近なところだと、住宅ローンの担保として、火災保険の請求権に対し、質権が設定されます。返済が残っている住宅が火災で消失すると、保険金は住宅ローンを融資した金融機関が受け取ることとなります。
その他の取引でも、質権を設定する取引は多くあるため、仕組みや抵当権との違いをよく理解しておきましょう。