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留置権とは?具体例・性質・他の担保物件との違いを解説

留置権とは?具体例・性質・他の担保物件との違いを解説

留置権(りゅうちけん)とは、「債権を回収できるまで預かった物を返さない」というシンプルながらも強力な権利です。日常生活ではあまり意識することがないかもしれませんが、不動産の賃貸借や建設、製品の修理などでは、思いがけず遭遇する可能性があります。

本記事では、留置権の基本的な仕組みや発生条件をはじめ、質権・抵当権・先取特権との違いを詳しく解説します。

留置権とは?

「留置権」とは、他人の物を占有(=所持・支配)している者が、その物に関連した債権を有している場合、債権の弁済を受けるまで、その人が対象物を占有し続けられる権利を指します。

留置権があることで、債権者は債務者から対象物の返却を求められても、弁済があるまで返却を拒むことができます。つまり、留置権を行使することで、債務者に対して間接的に弁済を強制することが可能なのです。

留置権は、契約当事者間の合意のもと設定されるものではなく、当事者の意思に関わらず、法律によって自動的に発生します。このように、一定の条件を満たすと法律上当然に成立する担保物権を「法定担保物権」と呼びます。

留置権の具体例

留置権には、動産・不動産のいずれも含まれます。具体的には、下記のようなケースで留置権が行使されます。

例その1

スマホ修理店がスマートフォンの修理を請け負ったが、代金の支払いがされなかった場合。客が代金を支払うまで、スマホ修理店がスマートフォンを占有することができる。

例その2

工務店が住宅の建築を請け負ったが、代金の支払いがされなかった場合。客が代金を支払うまで、工務店が住宅を占有することができる。

例その3

建物の賃借人(家賃を払って入居している人)が、建物の保存や管理、修繕などにかかる必要費を支払ったが、賃貸人(オーナーや大家)が返還しなかった場合。賃貸借契約の終了後も、賃借人が建物を占有できる。
※建物の必要費は、賃貸人負担。賃貸人は、賃借人が立て替えた必要費を直ちに返却しなければならない。

留置権の性質

留置権は、付従性・随伴性・不可分性の3つの性質を持ちます。また、不動産においては、登記ができないという性質も持っています。

なお、留置性の性質を理解する上で把握しておきたい用語が、担保物権と被担保物権です。担保物権とは、債権の弁済がなされない時に、担保となっている財産から優先的に弁済を受けられる権利を指します。対して、被担保物権とは、担保物権で担保されている債権そのものです。

付従性

担保物権と被担保物権には関連性があります。スマホ修理店の例でいうと、代金が支払われないという事象が起きない限り、店がスマホを占有することはできません。被担保物権がなければ、担保物権は発生しないということです。

随伴性

債権の譲渡が行われると、被担保物権に担保物権が一緒についていきます。スマホ修理店の例でいうと、修理を申し込んだA店ではなく、B店で修理が行われることになった場合、未払いの代金と修理済みのスマホの留置権はB店に引き継がれます。

不可分性

債権を一部弁済しても、担保になっている物すべてに留置権が及びます。スマホ修理店の例でいうと、1万円の代金のうち5,000円だけ支払われたからといって、スマホの本体を分割して預かるということはできないためです。そのため、スマホの修理代金が全て支払われるまでは、スマホ全体をお店が占有することになります。

登記不可

不動産に限定した性質ですが、留置権は登記ができない権利です。留置権は不動産を占有し続けることで発生するため、登記をする必要がないのです(=登記ができない)。登記をしなくても、抵当権などに対抗することができます。

留置権と質権の違い

質権とは、債権者が債務者または第三者が提供する動産・不動産・権利を債権の担保として占有することで、債権の返済が行われない時に、担保となっている財産から優先的に弁済を受けられる権利です。留置権と質権はいずれも担保物権に分類されますが、その性質や機能には明確な違いがあります。

留置権は、債権者がすでに占有している物に対して契約がなくても成立します。一方、質権は当事者間の合意の元、債務者が債権者に担保として物を引き渡すことによって成立します。

また、留置権では、対象物を占有することにより、債務者ヘの返還を拒むことはできますが、売却して債権を回収することはできません。対して、質権は、債権者が対象物を売却して債権を回収することができます。

留置権と抵当権の違い

抵当権とは、債権の担保として、債権の返済が行われない時に、担保となっている財産から優先的に弁済を受けられる権利です。主に、不動産に対して設定されます。留置権も抵当権も担保物権に分類されますが、こちらも性質や機能が異なります。

留置権は、債権者が対象物を占有しなければ権利が成立しません。占有することが、留置権の発生要件なので、占有状態でなくなれば権利も消滅してしまいます。留置権は、あくまでも間接的に債権の返済を促す手段なのです。

対して、抵当権は、債権者が対象物を占有していなくても権利が成立します。債務不履行があった場合には、対象の不動産を競売にかけて、債権を回収することが可能です。抵当権は、積極的に、または強制的に債権を回収する手段といえます。

留置権と先取特権の違い

先取特権(せんしゅとっけん)は、法律で特に保護されている債権に対して、裁判や事前の取り決めがなくても、他の債権者より優先して弁済を受けられる権利を指します。留置権と同様に法律上自然に発生する法定担保物権の1つですが、性質や発生の仕組み、効力の範囲などに違いがあります。

留置権は対象物の占有を前提としていますが、先取特権は占有を必要としません。また、留置権は対象物を処分するような強制的な回収はできませんが、先取特権の場合は優先弁済のために強制執行が可能です。

留置権の正しい理解がトラブル回避の第一歩

今回は留置権について、性質や他の権利との違いについて解説しました。担保に関する用語は多く、言葉は似ていても、性質や機能、発生の仕組み、効力の範囲がそれぞれ異なります。

日常生活でも、何かを修理に出したり、不動産を借りたりしていれば、不意に出会うこともあるでしょう。不当な扱いを受けたり、不利益を被ったりしないよう正しく理解しておくことが重要です。